東京高等裁判所 平成3年(ツ)2号 判決 1991年4月24日
上告人 マル・エム商事こと 井上滋夫
右訴訟代理人弁護士 小澤治夫
被上告人 町田博明
主文
一 本件上告を棄却する。
二 上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人の上告理由は、別紙上告理由書記載のとおりである。
民法四〇五条は所謂法定重利を認めた規定であるが、債務者保護のため、利息が一年分以上延滞したことを要件としており、かつ、その率は利息制限法一条一項の制限利率の限度内に限られることを前提にしている。そして、同条は、債権者に対する公平の見地から、遅延損害金についても準用されるというべきである(大審院昭和一七年二月四日判決・民集二一巻三号一〇七頁参照。)(なお、右の遅延損害金が所謂遅延利息であるか、あるいは損害賠償の予定であるかによって右結論を異にすることはないと解すべきである。)。しかし、この場合、元本に組入れることができる遅延損害金の率は、同条の債務者保護の趣旨からすると、同条が組入れを認める利息の率がそのまま準用されるものと解するのが相当である。したがって、利息制限法四条一項の損害賠償の予定としての遅延損害金について同法一条一項の制限を超える利率による約定が存する場合であっても、その元本への組入れは同法一条一項の定める率の限度内においてのみ許されるに過ぎない。
以上によれば、これと同旨の原審の判断はその結論において正当である。論旨は理由がない。(なお、民法四〇五条によれば、同条により組み入れることができる利息は、催告が債務者に到達した時に既に発生している分に限られるものと解するべきである。本件において、上告人は、元本二〇万円及びこれに対する昭和五二年四月二五日から平成元年三月一五日までの利息及び遅延損害金の合計八五万三一四二円並びに同月一六日から支払い済みまでの遅延損害金を七日以内に支払うよう催告し、同催告は平成元年五月七日被上告人に到達したと主張をしているのであるから、同催告の到達日以後の同日から同月一四日までの遅延損害金は元本に組入れることは許されないというべきである。これに反して、右の期間の遅延損害金の組入れを認めた原判決及び一審判決は、その点においては不当であるが、被上告人が附帯上告をしていない本件においては、民訴法三九六条、三八五条により原判決を維持して上告を棄却することとする。)
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 伊藤博 吉原耕平)
<以下省略>